今回はカナダのバンクーバーからお届けしよう。『スター・ウォーズ』シリーズが大好きで、プロジェクトを追いかけて台湾へ飛びキャリアを積み、それからバンクーバーで働くことになったという島田竜幸氏は「目指すものや目標が明確であることが大切」と語る。そんな島田氏に、お話を伺った。
TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Artist's Profile
島田竜幸 / Shimada Tatsuyuki(Sony Pictures Imageworks / Animator)
埼玉県出身。2008年に東京電機大学理工学部、WAOクリエイティブカレッジを卒業後、Polygon PicturesでCGデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、2013年に台湾のCGCGに入社。2017年1月にバンクーバーのMPCを経て、現在はSony Pictures Imageworksに所属し、現職。主な参加作品には映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)、『ジャスティス・リーグ』(2017)、Netflix作品『トロールハンターズ』(2016)、Netflix作品『ヒックとドラゴン 新たな世界へ!』(2015)、TVシリーズ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(2014)など
<1>ラグビー一筋の学生時代から、『スター・ウォーズ』の影響でCGの世界へ
――日本では、どのような学生時代を過ごしましたか?
現在もカナダでプレーしているラグビーに、高校&大学と7年間没頭していました。ラグビー漬けの毎日でまだ将来何がしたいかわからなかったのですが、やがて、研究者の父が自分の好きな研究に没頭している姿を見て、自分も好きなことを仕事にしたいと思うようになりました。そして子供の頃から大好きだった『スター・ウォーズ』の影響で、CGの世界に進みたいと考えるようになったんです。
大学では独学でCGソフトを使っていましたが、きちんと勉強したくて大学4年生のときにダブルスクールでWAOクリエイティブカレッジに通うことにしました。やる気があり志の高い友人に恵まれ、夢中で勉強した1年間でした。卒業制作をしている頃、ラグビーの試合で骨折し、手術をして松葉杖をつきながら学校に通ったことも、今では良い思い出です(笑)。
――大学卒業後、しばらくの間、日本でお仕事をされていたそうですね。
日本で働いていた4年間のうち、約3年間はPolygon Pictures(以下PPI)でお世話になりました。当時、PPIは多くの海外案件を受注していてワクワクしながら働くことができました。
新人の頃に、先輩達がルーカスフィルムから『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(以下、『クローン・ウォーズ』)を受注するためのテストを受けていたのですが「受注が決まったら絶対にこのプロジェクトに入りたいです!」とプロデューサーやスーパーバイザーにしつこくアピールをしていました(笑)。
当時まだまだ実力が伴っていませんでしたが、「『スター・ウォーズ』が好きなのは認める!」と"やる気採用"していただき、プロジェクトにアサインしてもらいました。念願の『スター・ウォーズ』作品に関われて本当に嬉しすぎる毎日でした! 外国人ばかりのプロジェクトチームだったので、多国籍な環境で働くことができたのも面白かったです。
――いつ頃から、海外での就業を意識されたのでしょうか?
CGを始めたときから「いつか海外へ!」、「いつかハリウッド映画に関わりたい!!」という夢はありましたが、そのための準備をして海外に挑んだ訳ではありませんでした。
PPIの『クローン・ウォーズ』制作は1年半で終わってしまったのですが、僕はこの大好きな『クローン・ウォーズ』にもっと関わり続けたくて、その後もシリーズ制作に関わっていた唯一の会社、台湾のCGCG(※シーズン1からファイナルシーズンまで制作)に応募することにしたんです。「クローン・ウォーズをやるためにこの会社へ行く!」と、それだけの気持ちで台湾に行くことを決めました。
事前に台湾について何も調べず、アジアのどこかという認識だけ。Skypeでの面接も契約などのやり取りも全て英語だったので、勝手に英語圏の国だと思っていました......。ところが飛行機が台湾に着陸した直後に中国語だらけの看板を目にして、そこで初めて「あれ? おかしいな」と思い、空港職員に「Excuse me?」と話しかけると中国語で返されて、台湾が中国語圏の国だということに、そのときやっと気がつきました(笑)。
幸い、CGCGはアメリカのTVシリーズをメインに制作している会社だったので、職場では英語が通じました。ワクワクするプロジェクトばかりで仕事も毎日楽しく、ここでもたくさんの良い同僚、そして学生以来のラグビーをする機会にも恵まれ、休日はラグビーに没頭する毎日。台湾チームの選手としてラグビーのアジア大会に出場し、見事優勝する経験まででき、台湾での4年間は楽しくあっという間でした。
カナダにいる現在も、週末にはラグビーを楽しんでいるという
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<2>台湾からハリウッド映画を目指して、カナダへ
<2>台湾からハリウッド映画を目指して、カナダへ
――海外での就業に向けた就職活動はいかがでしたか?
4年間の台湾生活で多くのアメリカのTVシリーズ作品に関わることができ、また海外を目指す多くの同僚に刺激を受けてハリウッド映画に関わりたいと言う目標を強く意識するようになりました。CG業界に限らず、台湾では日本のように会社が多くないので、どの分野でも海外へ目を向けている人が多いです。そんな台湾の空気も、背中を押してくれました。
デモリールを更新する度にいくつかの会社に応募して、バンクーバーとロンドンのVFXスタジオ2社から同時期に連絡をもらうことができました。バンクーバーのMPCから先にオファーをもらったので、カナダ行きを決め、ついにハリウッド映画へ関わるチャンスを得ることができたのです。MPCでは2つのVFX映画に関わり、その後、現在所属するSony Pictures Imageworksへと移籍、現在にいたります。
――現在の勤務先であるSony Pictures Imageworksは、どんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。
Sony Pictures Imageworksは、フル3DCG作品と実写系VFXの映画のどちらにも関わっている会社です。様々なスタイルの作品に携わることができる点が魅力ですね。世界中から集まった凄腕のアーティストばかりで圧倒されたり、たまに自信がついたりと、日々刺激を受け気持ちの上でも忙しい毎日です。
――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。
やはり、昔から憧れていたハリウッド映画に関われているということが何よりも嬉しいですね! 現在、関わっている『スパイダーマン:スパイダーバース』は今までにない新しいスタイルを試みている作品で、ショットに対して求められることは「Make it cool!!」(とにかくカッコ良くしてくれ!)ということです。自分のアイデアはもちろん、リード、スーパーバイザー、ディレクターとアイデアを出しあってカッコ良いショットをつくり上げていく。そんな作品に参加できて嬉しいですし、公開が今から楽しみです!
――英会話のスキルは、どのように習得されましたか?
英語を上達するためには、まず英語に慣れることが大切だと思います。それには、友達とたくさん会話をすることが1番です。僕は、中学から英語がずっと大嫌いでしたが、大学でたまたま受講したネイティブの先生との少人数英会話クラスが楽しくて、そのことが転機になりました。本当に簡単なことしか話せていなかったのですが、そのときに「あれ、俺、外国人と英語で話してるぞ!! 俺カッケーじゃん」と、今思えば勘違いですが、変な自信がついたんです(笑)。そのときから、嫌いだった英語に対して「英語を話すの楽しいかも」と思えるようになりました。
初めての会社が外国人が多く在籍していたPPIだったことも、ありがたい環境でした。ヘタクソながらも、会話をしようと思って積極的に話しかけて仲良くなりました。おかげで日本にいる間に英語に慣れて自信はつきましたが、台湾へ渡った後で、実は仕事&生活をするレベルで全然英語力が足りていないことに気がつきました(苦笑)。簡単な会話はできるのですが、説明や言い回しが難しくて......でも、中国語は全くわからないので英語力を上げるしかありませんでした。そこで、話したいことを毎日日記やメモに書き止めるようにしました。次の日のランチで友だちと話すネタを前もって用意するようにしたんです(笑)。その積み重ねのおかげで、英語での言い回しや表現方法が少しずつ増えていきました。
毎週のように一緒に映画を観に行っては、鑑賞後にビールを飲みながら感想を語り合う友人がいたことも英語力アップに繋がりました。好きな映画の話だからたくさん話したくて! 英語は嫌いでしたが、好きなことを話すために勉強する英語は、あまり苦に感じませんでした。
――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
僕の場合は「『クローン・ウォーズ』がやりたい! 『スター・ウォーズ』に関わりたい!!」その気持ちだけで、気がついたら海外に出ていた感じです(笑)。台湾が中国語圏の国だと知っていたら台湾に行ってなかったと思うし、自分の本当の英語力を知っていたら、もう少し英語力を上げてから海外に出ようと考えてしまっていたかもしれません。何事にも準備は必要ですが慎重になりすぎなくてもいいかなと思います。僕の場合は、何よりも「『スター・ウォーズ』に関わりたい!」その気持ちが強かった!(笑)。
大切なことは、目指すものや目標が明確であること。それがハッキリしているならチャレンジしてみるべきだと思います。逆に、その部分が曖昧だと海外に出たときに戸惑ってしまうかもしれません。海外も悪い部分はたくさんありますから(苦笑)。目指すもの、ブレない気持ちがあることが大切だと思います。僕自身、大好きな『スター・ウォーズ』に関わるためにILMへ行くという目標はずっと変わりません!
今回、この『海外で働く』のお話をいただいてから自分の経歴を振り返ってみて、ここでは話しきれませんでしたが、日本でお世話になった会社の方達や、台湾でお世話になった同僚や友だち、家族、妻のことを思い出し、たくさんの人に支えられたり、たくさん応援してもらったおかげで、今この環境で頑張れているんだなと改めて感じました。
素敵な機会をくださり、どうもありがとうございました。これからも周りへの感謝を忘れずに、突っ走っていきたいと思います。
映画『スパイダーマン: スパイダーバース』のアニメーション・チームの同僚と
【ビザ取得のキーワード】
1.東京電機大学理工学部、WAOクリエイティブカレッジを卒業
2.国内スタジオで経験を積む
3.台湾のCGCG Incに就職、台湾の就労ビザを取得
4.カナダのMPC、Sony Pictures Imageworksに就職、カナダの就労ビザを取得
info.
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